「サブ4なら月間150〜200km」。東京マラソンや大阪マラソンに当選して、「月間走行距離 目安」で検索した方なら、一度は見たことのある数字だと思います。先に結論を言います。この目安は間違いではありません。ただ、それは平均値です。そしてあなたの身体は、平均値ではありません。

この記事のポイント

  • 「サブ4=月150〜200km」という目安は、多くの完走者の統計的な平均像です。あなたへの処方箋ではありません。
  • 同じ月間150kmでも、ある人には着実な積み上げ、ある人には故障の一歩手前。分かれ目は距離そのものではなく、あなたの負荷の履歴——身体が最近どれだけの量に慣れているか、です。
  • それを測るシンプルな指標が ACWR。ざっくり言えば「直近1週間の走行量 ÷ 直近4週間の週平均」です。この比率が 0.8〜1.3 に収まっていれば故障リスクは低く、1.5 を超えると明らかに高くなります。
  • だから「月に何km走れば足りるか」より良い問いは、「今の自分から、次の一歩をどこまで増やすのが安全か」。目安は週あたり約10%までです。

目安は間違っていない。でも「あなたの今日」には答えられない

「サブ4=月150〜200km」という公式は、サブ4を達成した多くのランナーの練習量をならすと、だいたいその帯に収まる、という話です。遠くの目印としては役に立ちます。目的地の方角は分かります。

問題は、目印をナビだと思ってしまうこと。平均値は、いちばん大事な情報を消してしまいます。スタート地点は人によって違う、ということです。

  • 月間180kmが当たり前の人にとって、150kmはむしろ楽な月です。
  • 先月60kmしか走っていない人が今月いきなり150km走るのは、練習量を一気に2.5倍にするということ。故障の典型的なパターンです。

同じ150kmでも、片方は積み上げ、片方は賭け。公式にはこの違いが見えません。公式はあなたを知らないからです。

分かれ目は「負荷の履歴」にある

身体には「慣れの水準」があります。ここ数週間でどれだけの負荷をかけてきたか——身体はその分だけ、受け止める準備ができています。故障リスクは「今月何km走ったか」ではなく、「慣れている量からどれだけ急に増やしたか」についてきます。

スポーツ科学には、これを見るためのシンプルな指標があります。ACWR(急性:慢性負荷比)。名前は硬いですが、中身は簡単です。

直近1週間の走行量 ÷ 直近4週間の週平均。
  • 0.8〜1.3:身体が慣れた範囲の少し上で積んでいる状態。故障リスクは最も低い帯です。
  • 1.5以上:身体の慣れを大きく超えるペースで増やしている状態。ニューヨークシティマラソンのランナー735人を追った研究では、故障したランナーはこの帯に入った週が多かったと報告されています。
  • 0.5以下が続く:トレーニング刺激が足りず、体力が少しずつ落ちていきます。

(実際の計算では、直近の日ほど重みを付ける方法が主流です。風邪で1週休んだだけで数字が乱れないようにするためですが、考え方はこの比率のままです。)

先ほどの例に戻ると、月60kmの人が150kmに跳ぶのは、週14kmから週35kmへのジャンプ。比率は完全に危険域です。この人の問題は「150kmでは足りない」ことではなく、「今の自分にとって150kmは多すぎる」ことです。

だから、問いを変える。「次の一歩は何kmか」

「月間走行距離の目安は?」を「今の自分から、次はどこまで増やせるか?」に置き換えると、答えは具体的になります。

  1. まず直近4週間の実際の走行量を確認する。記憶ではなく、時計のログで。
  2. 増やすのは週あたり約10%まで。週30kmの人なら、翌週33kmが堅実な一歩です。いきなり40kmに跳ぶのは、比率との賭けになります。
  3. 目標から逆算して、時間を確保する。月90kmから月180kmへは、安全なペースだと2〜3か月かかります。走行距離は、レース前月に慌てて作るものではなく、エントリーした日から貯金していくものです。

この計算は公式より地味な数字になるかもしれません。でも、公式には出せないものがあります。あなたの身体が受け止められる量だ、ということです。

自分の「走行距離の家計簿」を、データに任せる

ここまでの計算は、電卓でもできます。ただ、毎週4週平均を出して、比率を見て、次の一歩を決めて——を続けるのは、正直かなり面倒です。Paceriz を作った理由のひとつがそこにあります。Garmin・Strava・Apple ヘルスケアの実走データを読み込んで、この「走行距離の家計簿」を代わりに付け、毎週「あなたの次の一歩は何kmか」を、理由と一緒にお伝えします。先週増やしすぎたから今週は抑える、まだ余裕があるから少し積む——数字だけでなく、なぜかまで。

「みんなの平均」ではなく、「あなたの次の一歩」。問うべきなのはこちらです。

おわりに

目安は他人の平均値。あなたの身体は、あなた自身の履歴しか知りません。月間走行距離が足りているかどうかは、他人の答えに自分を合わせて測るものではありません。直近4週間の実走から出発して、一歩ずつ。ゆっくりに見えても、その一歩は崩れません。

あなたの「次の一歩」を知りたい方へ

Paceriz があなたの実走データを読んで、走行距離の家計簿を付けます。

無料で最初の1週間を始める